鉄道ディスコで朝まで踊りましょ♪
はじめに
どうもお久しぶりです。久々の更新エントリーです。院生生活をしているわけですが、最近は実験ではなく解析に回されているため比較的穏やかな生活を送っています。
ここでイマイチ研究ってどういうものかわからない人のために解説しておきます。研究室によりますが研究は主に実験班と解析班があります。大概大変なのは実験班です。理由は簡単です。やることが多いからです。実験の下準備からほしい結果を得るためには、研究内容にもよりますが、大変な道のりと時間がかかります。末に良い結果が出れば報われるのですが、大概は失敗します。先人の研究者が残した言葉で『失敗を楽しむようになってからが一流』というのが僕は印象に残っています。解析もやりこみ要素はもちろんありますが、基本個人プレーで他人に左右されることがありません。しかし、大概は今の僕のようにダレます。*1
そんな風に研究に若干辟易とし、だれた生活をのうのうと送ってきました。ある日友達から『インターン』という言葉を聞きました。「そうか、僕もそういう時期が…。」と思いインターンを考えました。『みんなやってるしやるか』の精神で取り合えず片っ端から面白そうなところに出しました。*2僕のスタンスですがこういう選択肢が多いものは考えるだけ無駄です。実際に行ってやってみて初めて分かることの方が多くて、自分の少ない経験の上での判断は大概外れます。今回大事にしたのは学科のみんなが出してる『重工系メーカー』にだけは絶対出さないことです。*3
結局そんなやる気があって臨んだわけでもなく面接も1回くらいしか行きませんでした。*4そんな中で何の因果かES(エントリーシート)審査オンリーの鉄道系の企業に行きました。少し面白かったのでここにまとめてみようという魂胆です。*5
インターン
鉄道企業に行ってきた
何の因果か鉄道企業に3日ほど行ってきました。印象としては「なぜ機械系のインターンに結局来てしまったんだ。」という感じです。当時は自分でこのインターン先を選んでしまった自分が分からないという気持ちでした。インターン初日に「君は集電装置と電車線の部署に行くからね。」と言い渡されました。聞いた瞬間「え…凄くつまんなそう…。っていうか『シュウデンソウチ』って何それおいしいの?」って感じでした。
集電装置部門
集電装置とは何でしょう?どうやら『パンタグラフ』のことを鉄道業界では厳めしくそういうようです。パンタグラフは以下のFig. 1に貼っておきます。
瞬間見てみて思いました。『地味だなー。』っと。しかしどうやらこれがいくらか難点があるようです。難点を説明する前に『パンタグラフってなんなの?』って説明していきます。ちなみに僕はこのインターンで初めて名前を知りました。*6
パンタグラフとは…。
パンタグラフについて簡単に説明します。まず電車は電気をもらって走っています。その為には、電気をどこかから車体に供給しないといけません。大胆に言ってしまえば、『高速で動く巨大構造物に大電流を供給し続ける部品』をパンタグラフといいます。その為にパンタグラフはむき出しの電線から大電流を常に供給されています。そんな激しいことをやっているのでもちろんいくつか問題点もあるようです。
問題点
理想のパンタグラフを述べます。大きく言って二つです。
- 電線からずっと離れない。
- 騒音がない。
この二つが完璧に満たされたら最高です。しかし、大概世の中はうまくできていません。実際は
- 電車線に追随しない(追従性)
- うるさい (騒音性)
- パンタグラフが電車線に擦れて削れる (摩耗性)
など多岐にわたる問題点を含んでいます。
追従性
『追従性って大事?』って言われたら、『大事です。』と答えるのが筋です。『離れるとどうなるの?』という疑問が出てきます。電車線とパンタグラフが離れると、Fig. 2のようなアーク放電がでます。
上が皆さんが想像するアーク放電、下が実際のアーク放電です。上だけ見たらなんかやばそうですよね。インパクト薄れましたが、下図のような事がおこっても、まぁもちろんヤバイです。アーク放電が起こった分だけパンタグラフと上の電線もろとも疲労します。だから、なるべく綺麗にパンタグラフは電線に追従して欲しいんです。
さて、なぜパンタグラフは電車線に追従しないのでしょうか?それは、上の電線が車両が走行することで揺れまくるからです。揺れのメカニズムは完全に解明されていないのでこれも問題です。他にもいろいろな観点から容易にはこの問題を解決できない状況にあるようです。
騒音性
日本は電車の騒音に厳しいです。理由の一つは、ありえない数の電車数で市街地をバンバン走るところは日本くらいしかないからです。なので騒音対策が要求されます。電車で騒音の原因は大きく2つです。
- 車輪
- パンタグラフ
だからパンタグラフの騒音を下げるのは日本では一つ大きな課題なのです。(Fig. 3)
騒音ってなんで起こるのでしょうか?理由はむき出しのパンタグラフが高速で動くからです。おかげで周りの空気がパンタグラフにぶつかりまくって、Fig. 4のような空気の渦を起こします。生じた空気の渦が騒音の原因です。*7渦を消したいまたは制御したいという要求が一つあります。
高速で動いているがゆえに飛行機じゃないのにパンタグラフに飛ぶ力(揚力)も生まれます。(パンタグラフではないですけどFig. 5 みたいな感じ。)
これがパンタグラフの設計を難しくしているところです。高速で走るがゆえに考えなくてはいけない物理現象が多数出てくるのです。 このような騒音や揚力の制御は主にパンタグラフの形で改善が試みられています。
摩耗性
パンタグラフは常に高速で電線を擦りつけつづけます。だからもちろんFig. 6 のようにもりもり摩耗します。
摩耗すると何が変わるでしょうか?そうです。形状が変わります。そうすると、せっかく騒音を下げるためにパンタグラフを設計したのに、パンタグラフの形が変わるので台無しになります。だから、摩耗に強く良い電導性がある材料が要求されます。
しかしそれぞれの問題は相互に連関していて、こっちを立てたらあっちが立たないということが良くあります。また、いいアイディアを出したと思うと実用の壁にぶち当たることも多々あります。パンタグラフの設計の困難さはこういう現実の折り合いの付け方というところに一つある気がしました。
電車線部門
パンタグラフについて見てきました。今度は始点を上に上げて電車線に目を向けてみましょう。(僕は2日目にこの電車線の部署に回されました。)電車線とはFig. 7みたいな感じです。
拡大するとFig.8みたいな感じです。鉄道業界では『トロリ線』というらしいです。
問題点
パンタグラフでは課題と問題点がありました。トロリ線でも課題と問題があります。大きく分けて以下の2つです。
- 揺れ方がわからない (追従性)
- 摩耗しない硬い電線が欲しい (材質)
追従性については先ほど言及した通りなので、材質について言及します。
材質
摩耗しない電線は理想的です。しかし、電線は固くもあって欲しいのです。硬い電線というのは実は重要な要求なのです。なぜなら、硬いとより強く引っ張れます。強く引っ張ると物理の法則から伝搬する波が速くなります。(Fig. 9 みたいな高校物理の問題みたいな感じが実際電線でも起きています。波の震源部分がパンタグラフに対応していて、実際は震源も動く問題だと考えられます。あんまり適切ではない気もするが…(笑)。)
波が速くどっか行ってもらえれば、波の影響を考えなくていいのでパンタグラフは電線に追従しやすくなります。結果より速く電車を安定して走らせられます。目的は電車を速くして国内飛行機より速くしたいのです。そして、みんなに飛行機よりも電車を使ってもらってお金を稼ぎたいんです。このためには固い電導性のいい材料が欲しいのですね。なるほどと言った感じでした。もちろん、車体性能の向上やパンタグラフの向上も必要不可欠です。
おわりに
今回は終電装置に絞ってまとめました。理由は僕はそこしか見ていなかったからです。しかし、他にも地味でありますが難しい物理問題が鉄道には山積しています。意外と『何?!地味だと思ったのに意外と複雑じゃねーか!話が違うぞ!!』と言った感じでした。それくらい、普段目にする鉄道は気づきにくいけどありえないものだということです。今回の学びでした。だからって在来線の名前とか覚えないけどね。*8これ一体誰に向けて書いたんだろうな。
駐訳と詳細
*1:完全に個人差です。
*2:時には全く興味のないところへもあえて行きました。僕はパチンコ店のインターンとか1dayですが行ってみました。
*3:結果途中で考え直して少しそれに近いメーカーに出しました(笑)。重工系も素直に見とけばよかった。ちゃんと文系の職業のES書いときゃよかった。など後に隠れて沢山後悔しました。怠惰は敵ですね。
*4:金融系を無対策で受けてみたのですが綺麗に落ちました。世の中甘くないですね。
*5:素人意見なのでご注意下さい。
*6:鉄道オタクの女の子から『コイツ人間かよ…』みたいなリアクション取られました。普通知らないよって感じです(笑)。
*7:ちなみに渦から音が出るメカニズムは完全には解明されていないようです。